天国はまだ遠く

天国はまだ遠く

この人の小説は共通してひんやりとした澄んだ空気を感じる。読んでいてそれがとても心地よい。「幸福な食卓」は好きじゃなかったけど*1、この小説は清々しい空気がこちら側にも吹き込んでくる。自然の恵み、食への感謝、生きることの仕組み、そういうさまざまなことを考えさせられる。

食事をすると、自分が生きていることがわかる。生きているのが良いのか悪いのかは別にして、魚や米や味噌、そういう確かなものを食べていると、ここでこうやって存在しているんだなあって感じる。

私は妙に寂しさを感じたときは「きっとお腹が空いているんだ」と割り切り、必ず何かしら作って食べる。妙な寂しさ、心細さは食によって解消できる。美味しいものを食べるとそれだけで気力がわいてくるものだよね。

もちろん、私だって趣味ぐらいはあった。(中略)だけど、別にそれらが出来なくなったってちっともかまわないし、何も困らない。(中略)
大事なものはたくさんあったような気がするのに、今となっては全てが取るに足らないことに思えた。結局、私が必死だった恋愛も仕事も日々の生活も少し離れてしまえば、すんなり手放せるものばかりだった。

確かに、環境が変わると今まで必死にしがみついていたものも、”取るに足らないもの”になってしまう。恋愛も、そのときは必死でも、今となっては無いなら無いで一人でも楽しくすごせてしまうんだよなぁ〜。取るに足らないということに気づかず身を滅ぼすことが一番怖い。特に仕事に関しては。


と、小難しいことはさて置いても、とても気持ちよくなる小説だった。月並みな言葉で言えば、デトックス小説とでもいうか。何かに煮詰まっている人にオススメ。

*1:人が死ぬのは勘弁