お人形

ぽろぽろドール

ぽろぽろドール

もう暫く読書欲が弱っていて本を借りてきても開くことさえなく返却する日々が続いていますが、そんなときでも豊島ミホの作品はふっと開くとスラスラ読めてしまう。文体がストレートで簡単からかな。


今回は結構マニアックな内容で、「エバーグリーン」とは又違う豊島さんの魅力が詰め込まれてる一冊。以前テレビでマネキンと結婚したいという女性(※音に注意)がいましたが、そういった人間以外のものへの愛情が描かれた短編集。


個人的に一番衝撃的だったのは「きみのいない夜には」。最初は普通にある同棲カップルの話。なのに最後の最後で強烈な結末に驚いた。でも「運命」を求める気持ちは良く分かる。私は恋愛に関してもどこか客観的な視点が抜けない反面、そういった何も見えなくなるような「ゆるぎない運命」を求める部分があって、「世界の終わりという名の雑貨店」だの「Dolls」だのと”逃避行モノ”に執着してしまう。*1
なんだろう、愛する誰かだけ手に入れて後は捨てて生きたいのだろうか・・・。

地の底までさらわれて自分の中身がすっからかんになるような、運命が欲しい。「地の底まで」じゃなくて「血の底まで」だ。本当の運命というのは、自分が無力で、何も出来ないことを実感するしかないような、力強い流れのことだと思う。巻き込まれたら、もう私は私でない、そんな感じ。

好きだったら何も言わずに巻き込めば良い。所詮その程度の「好き」なんだ、と私は思う。(中略)本当に愛していたら、私が人形と喋ろうが人形になろうが自分のもとに置けば良いのだ、それが自己満足だとか指摘されても。それでこそ恋だし、運命だ、と思う。



戦争に行った坊ちゃんに執着し続けて生きた「サナギのままで」は思わず涙した。愛する人の個々を思い浮かべてはそれを形にしていく様は心がじんわりと熱くなった。人形が出来上がったときの感動。私まで感動して泣いてしまった。

ただ、私がぼっちゃんに憧れていればよかったのです。うっとりと、酔うように見ていればよかった。戦争なんていっちゃ嫌だといって、坊ちゃんの背にしがみついて泣けばよかった。

「僕が人形と眠るまで」も結構好きだった。自然体のままで美しい男の子が事故によって醜い姿となる。ヒトミを「モー娘。の矢口を太らせた」という形容詞は私のイメージとぴったんこ。私の脳内では柳原可奈子さんでした。


マニアックな題材なだけあって、濃い感情に痺れた小説集でした。嶽本野ばらが好きな人にはよいかも。私は基本的にミライ系の小説が好きみたいだ。

*1:西島秀俊がすきなのもこういう儚い部分に惹かれてしまうんだと思う・・・。