憶えたまま、すべて持っていくのだ。

エバーグリーン

エバーグリーン

豊島ミホの作品の中で一番好きだ。
アイドルに恋をするかのように、自分の思い出の中の男の子を思い続け、現実を見つめることも出来ず、いつのまにやら年を重ねてしまった少女漫画家のアヤ。自分も似た様な青春時代を送ってきたせいかアヤの気持ちが痛いほど分かった。
痛いほど誰か想った、その想いは他の誰かを想っている今でも、十分輝いている。そして今思い出してもやっぱり痛く、切ない。

『そばに居る人と居ない人は全然異質の「好き」になるよね。』



子供の頃の恋だといえども、本当に一生懸命で、本気で好きだった。今とは形の違う、ゆるぎない想いで胸がキリキリするほど恋焦がれてた。その想い出に浸りすぎて私もアヤと同じようにずっとひとりのままだった。そして同じように、自分はとんでもない間違いをしてるんじゃないだろうかとか、他のやり方でしあわせになることだってできたんじゃないか、単純に自分は誰のことも好きになれない淋しい人間なんじゃないか、ぐるぐる思いながら歩み続けた。記憶の中に閉じこもって何処へもいけない自分はおかしいんじゃないか。けれど、いつしかそんな迷いもふっきれて、誰かが現れるまで色んな人の優しさに触れながら一人で歩いていこうと思うようになった。そんなところにひょっこり恋人君が現れれた。
恋人君はそんな私の中にふっと簡単に入り込んで、私をとても安心させた。そして『この人には私が必要なんだ』とも思わせてくれた。
けれど、恋人君と出会った後でも、変わらない昔の思い。やっぱり「そばにいる人といない人」で全然違う形の愛なのだ。

こんな箱みたいな中学で、同じクラスの男の子を好きになるなんて、てんとう虫同士の恋みたいなちっぽけなものかもしれない。
 でも、今ここに居る私には、シン君よりも圧倒的なものがこの先に待っているとは思えない。

十年もあったのだ。高校に通って、大学だってちょっと行った。その間、私は誰も好きになれなかった。ひょっとしてシン君が居ても居なくても、あの約束があってもなくても、同じだったのかもしれない。私は単に、淋しい人なだけかもしれない。

あけすけに恋バナのできる友だちも、彼氏も居ない二十四歳の私は、ただ十年かけて腐っているだけなのかもしれない。濡れた毛布のような思い出にくるまって、身体じゅうにカビを生やしながら。